
登山電車の始発は箱根湯本駅だが、箱根登山鉄道の起点は小田原駅である。 以前は小田原駅から強羅駅まで直通していたのだが、2000年をすぎた頃から箱根湯本駅で乗り換えなければならなくなった。 新宿駅からはロマンスカーで乗り換えなしに箱根湯本まで行くことができる。

箱根湯本を出発すると、いきなり80パーミルの急勾配を登っていく。 パーミル(‰)とは傾斜の単位で、1‰=1/1000、つまり水平に1000m進むと1mの高さを上がる割合だ。 80‰は電車が登れる限界と言われるから、相当な傾斜である。 標高は箱根湯本が96m、強羅が541mなので、約450mの標高差をこれから登っていく。 進行方向左側の席に座るのがよいだろう。 強羅までの間、ずっと谷側にあたるので、ところどころ下方の眺めがよい。

箱根湯本駅の一つ隣の塔ノ沢駅へ、トンネルをくぐりながら登っていくが、すでに線路脇にはアジサイを見ることができる。 塔ノ沢駅は国道1号線からはだいぶ高いところにあり、駅から坂道を下って行けば塔之沢温泉郷だ。 因みに箱根登山鉄道には12個のトンネルがある。

この時期の塔ノ沢の名所は、1609年創建、アジサイ寺と呼ばれる阿弥陀寺であろう。 山道を20分ほど登る必要があるが、厳かな雰囲気の境内に咲くアジサイもよい。 駅構内には銭洗弁天がある。

関東の駅百選にも選定されている塔ノ沢駅をすぎると、最初の見どころが出山の鉄橋だ。 早川に架かる高さ43mの鉄橋で、箱根登山鉄道の開業時に天竜川に架かっていたものを移設したのだという。 塔ノ沢から次の大平台へは標高差184mを一気に上がる。

出山の鉄橋を渡り、山間をぐるっと半ループしながら登っていくと、これから進む線路が山側から合流してくる。 ここが出山信号所で一つ目のスイッチバックだ。 斜面が急坂で登れない場合に、勾配を緩やかにするために、後戻りしながらジグザグに登っていく方式がスイッチバックである。
箱根登山鉄道にはスイッチバックが3つあり、出山信号場、大平台駅、上大平台信号場に儲けられている。 また、単線なので、この信号場で上下の列車がすれ違う。 出山信号所からは箱根の山並みが見渡せて、気持ちがよい。 細い事業用ホームに降りた運転手と車掌が入れ替わる。
写真は上大平台信号場のスイッチバックで、右から登ってきて、進行方向を変え、左へ登っていく。

進行方向が逆向きになって、今まで走ってきた谷側の線路を見送って、山側の線路に入る。 斜面につけられた線路を走ると、よくこんなところに線路を敷いたものだなと思わされる。 やがて標高337mの大平台駅に着く。 ここで2度目のスイッチバックをする。 大平台駅周辺の線路脇はアジサイの小径と呼ばれ、シーズン中は写真を撮る人で賑わう。 駅を出て国道1号線を少し下っていくと、箱根駅伝の中継で知られるヘアピンカーブがあり、急な登りであることを改めて実感できる。

大平台駅から山側の線路に移って登っていくと上大平台信号場で、ここが最後のスイッチバックである。 登り下りの線路の間に旅館が建っていて、多くの鉄道ファンが泊まりに来るらしい。 大平台隋道をくぐると、列車がすれ違える仙人台信号場で一旦停車する。 この辺りは急カーブが多く、車輪が線路を擦る音がキーキーと山間に響く。 やがて標高436mの宮ノ下駅に着く。 この駅も国道から急坂を上がったところにある。 ホームには花壇があり、色とりどりのアジサイが植えられている。

車窓を楽しむには、窓の大きい新型の車両がベストではあるが、昭和30年代につくられた車両に乗るのも趣がある。

宮ノ下には老舗の富士屋ホテルをはじめ、チャップリンの散歩道や秀吉の太閤岩風呂などがあり、古い車両で訪れてロスタルジックに浸るのもよい。

宮ノ下から小涌谷へも、まだまだ山の中といった印象で、標高差87m上がる。 温泉小学校の敷地をかすめ、緑が濃くなると半径30mという急カーブを曲がり、車輪の音を響かせながら走る。 やがて視界が開けて小涌谷踏切に出ると、小涌谷駅である。 小涌谷踏切は箱根駅伝の選手を優先して、電車が待ってくれる踏切だ。 昔は電車が来て踏切が閉まり、選手が立ち往生することもあった。

小涌谷の名所は、四季の花が咲く蓬莱園、苔むした岩肌をいく条もの糸のように流れる千条の滝など。
ここから山道を30分ほど登っていくと、東海道が開通するまで箱根越えの道であった湯坂路という古道に出る。 紫陽花の咲くハイキングコースになっているので、体力のある人は行ってみるとよいだろう。

電車は小涌谷までは国道1号線に沿って登ってきたが、ここで分かれて強羅へ向かう。 この先は住宅なども多くなり、勾配は緩やかだ。 次の彫刻の森駅への途中、牛乳屋踏切という面白い名前の踏切がある。 この辺りに店は一軒もないが、昔は牛乳屋があったのだろうか。 線路脇にアジサイが多く植えられ、撮影スポットになっている。

やがて標高541mの強羅駅に着き、改札を出ると土産物屋などが並び、観光地の雰囲気である。

強羅からはケーブルカー、ロープウェイを乗り継いで、噴煙が上がる大涌谷や芦ノ湖へ行くのがよいだろう。

大涌谷で富士山を眺めながら、寿命が7年延びるという黒たまごを食べ、ロープウェイの終点である芦ノ湖畔の桃源台から海賊船で元箱根港へ、これが箱根ゴールデンコースである。

梅雨の時期は、相当に運がよくなければ富士山は見えないが、靄に煙る箱根の山並みもいいものだ。

旅行記&登山記 拙い文章ですが、お読み頂ければ幸いです。 【1月】❄大雪の朝、高尾山へ 【2月】🌸河津桜の発祥・伊豆へ原木を見る 【2月】🌸松田山の河津桜 【3月】🏞伊豆・河津七滝めぐり 【4月】🌸御殿場線の栄枯盛衰と桜 【4月】🌸高尾山から城山へ・桜ハイキング 【4月】🌸京都の桜・サクサク歩き旅 【5月】🌺ゴールデンウィークの鎌倉花めぐり 【5月】🌳新緑の丹沢最高峰・蛭ヶ岳へ 【5月】🌾田植えを待つ足柄の棚田と富士山 【5月】🌺箱根・金時山のツツジと新緑 【6月】🌺鎌倉の紫陽花と梅雨の花 【6月】🌺箱根・あじさい電車に乗って 【7月】🗻台風一過の富士登山 【9月】🗻秋の宝永山ハイキング 【11月】🍁箱根フリーパスで紅葉前線を辿る 【11月】🍁大河ドラマで賑わう鎌倉の紅葉 |